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彼を応援しているつもりだった──。それは彼を信じていたからこそ。でも、あるとき気づいたのです。私は夢ではなく、彼に都合よく利用されていたのだと……。
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ライブハウスで出会った彼は、ギターを抱えてステージに立つ姿がとにかく印象的でした。作曲に真剣に取り組み、自信に満ちた表情で音楽について語る彼。私は一瞬で彼に心を奪われました。「いつか音楽で食べていけるようになりたい」。そう話す彼の目はまっすぐで、その夢を一緒に見てみたいとさえ思ったのです。
その後、私と彼は距離を縮めていきました。実家暮らしで夜勤バイトをしていた彼。彼は仕事終わりに私の家へ寄り、ごはんを食べて眠る……。というのがいつしか日常になっていました。
私は彼が横で眠る姿を見守るのが日々の楽しみになっていました。音楽活動に夜勤バイト、疲れているのだろうと、私は静かに寄り添い続けていました。
ただ、彼はバイトが長続きせず、職場を点々としていました。「交通費がない」と親からお金を借りる様子を目にしたり、次第にデートも外には行かずずっと部屋の中でということが増えたり。彼がお金に困っていることは明らかでした。
そして食費や日用品の買い出しに加え、彼の洋服代まで、気がつけば私が支払うのが当たり前になっていったのです。それでも、彼からの「ありがとう」のひと言に私は満たされていました。「好きだから支えたい」。そんな思いが私を突き動かしていました。
やがて、彼のお願いはエスカレート。「新しいギターを買いたい」「スタジオ代が必要」と、気づけば数万円、数十万円の金銭の要求をされるように。
「これは未来への投資だから」「売れたら絶対、ラクにさせるよ」と彼は言っていました。その言葉を信じたかったものの、返済日が曖昧なままの約束に、私の中では少しずつ彼への疑念が生まれていったのです。
ある日突然、彼のバンドが解散。使われることのなかった機材が部屋の隅に積まれ、返ってこないお金と、言い訳だけが残りました。
私は彼の夢を応援していたはずだった。けれど、これは夢にかこつけた依存だったのかもしれない……。そう思った瞬間、自分の中で何かが音を立てて崩れていきました。
そして私は静かに彼に別れを告げることに。「これ以上関係を続けても、未来が見えない」。その言葉を口にしたとき、不思議と涙は出ませんでした。むしろ、ようやく肩の荷が下りたような、そんな感覚に包まれたのです。
恋愛は支え合いがあってこそ成り立つものです。どちらか一方だけが負担を抱える関係は、その場はよくても、いずれひずみを生みます。
相手の夢を応援する気持ちは大切ですが、誠実さや努力が伴っていなければ、ただの依存に変わってしまいます。この経験を通して私は、自分を犠牲にしない愛し方、対等で健全な関係の大切さを知ることができました。
著者:桐島千夏/40代女性・母子家庭のママ。フリーのライターとして活動中。恋愛をはじめ、過去の体験談などを執筆している。
イラスト:Ru
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年7月)
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